限界集落での『遺され村の美術展』

限界集落での『遺され村の美術展』

万葉集の大半は詠み人知らずの歌である。
作者の名は消えて作品だけが在る。

遺され村には、山林とせせらぎと無数の廃屋がある。
堀尾貞治さんはじめ多くのアーティシストが自分の作品を
置く場所を自分で発見し、風景の中に溶け込ませている。
感動的にすばらしいのは、その作品たちに昔からの村人たちが
自立発生的に匿名のマーキングを重ねていったことである。

詠み人知らずの多くが地の果ての防人であったことを想えば、
知と独善的に戯れる現代アートと
金まみれの世界美術マーケットの
現代アート狂態からの防御の役割を
果たしてるようにも見えてくる。

この村出身の上田哲郎にしかできなかった美術展は、
点が線、面となってできた。面は持続はしない。
しかし、これに刺激をうけたどこか遠い限界集落でも
一つの点がもぞもぞと動き出すにちがいない。
そうした一枚づつの層がかさなっていって、
地球はゆっくりと暮れていくのだろう。
人類の壮大な夕映えの序章をみせてもらった。

*この美術展は、6月4日まで。
(すべての作品は写真でみても意味はない)