仁左衛門の『盟三五大切』

蒼い月光が一瞬で世界を凍結させてしまう。
凄惨で孤絶な殺しはすべての時を止めた。

仁左衛門の『盟三五大切』
この子だけはとすがる両手に刀を握らせ
その手で赤ん坊を殺させる。
殺した愛人の首を袂にかかえて雨の中をいく。
愛人の首を前に茶漬けをたべさせようとする。
極悪非道、これでもかの悪のうねりを
目をそむけさせず、魂をわしづかみする仁左衛門。

2011年、同じ松竹座で仁左衛門の
『盟三五大切』をみている。
このときは、今後もこれ以上の舞台を観ることはないだろうと
氷の衝撃を受けた。事実、そうであった。
今回は2回目だけに、殺しのシーンのあとの
下座音楽に耳を凝らし、鶴屋南北の<色悪>を考え、
舞台における<時分の花>について
おもいをめぐらす余裕があった。

千穐楽、幕がおりても「松嶋屋」の大向こうからの掛け声、
拍手は終わらない、終わらない、・・・ひょっとして・・・