「~略
戦争がみじめな敗け方で終った日、フジタは邸内の防空壕に入れて
あった、軍部から依頼されて描いた戦争画を全部アトリエに運び出さ
せた。そうして画面に書きいれてあった日本紀元号、題名、本人の署
名を絵具で丹念に塗りつぶし、新たに横文字でFUJITAと書きいれ
た。先生、どうして、と私の女友だちは訝しがった。なにしろ戦争画
を描いた絵かき達は、どうなることかと生きた心地もない折だ。なに
今までは日本人にだけしか見せられなかったが、これからは世界の人
に見せなきゃならんからね、と画家は臆面もなく答えたという。つま
りフジタにとって戦争は、たんにその時代の風俗でしかなかったのか
も知れない。
~後略」
野見山暁治のエッセイ
ー戦争画とその後ー藤田 嗣治