後朝や掃きて空蝉崩れざり : 小林貴子

玄関をあけると、ゴロッ仰向け一匹。
階段おりると、カサコソうつ伏せ一匹。
表通りまでに死骸は四五匹。
ここで間違いに気がつく。
いきている蝉は一匹、死骸は一個。
人間は一人。死んでも一人。魂はどう数える?

蝉の死骸の多いのは、庭に樹が多いから。
しかし、空蝉をみかけることはほとんどない。
風がはこんでいってしまうからなのか。

きょう十三公園を横切ったら、
死骸よりも空蝉ばかり。
これもまた奇妙。
真っ昼間から、ラブホテルに
カップルがぞくぞくときえていく。

*後朝や掃きて空蝉崩れざり : 小林貴子