塚本邦雄の生地、近江へ

我が師、塚本邦雄の生地、近江へ。
一度は訪ねてみたいと思いつつ、今回のき
っかけは陶芸家の奥ちゃん。「ちょっと辺鄙
な能登川で展示します」。ピンとくるものが
あった。塚本先生がおいでおいでしてる。

JR能登川駅のホームに降り立つと、制服
の女子高生らが一斉に甲高い声をあげた。春
浅し、吹き上げる風はまだ玲瓏たる気配を残
していた。

青年の群に少女らまじりゆき烈風のなかの
撓める硝子        『装飾楽句』

生家跡はすぐにわかった。きれいに舗装さ
れた駐車場になっている。なんの感傷もない。
それはわかっていた。だけど周辺の山は、神
社は100年変わってはいないだろう。塚本
邦雄が思春期を過ごした風景の残欠だけは。

駐車場のフェンスにカフェの看板がかかっ
ていた。偶然にもそれが今回のきっかけとな
った画廊。 < ←200メートル >

五箇荘の旧家を改造したゆったりとした空
間にコーヒーの香りが漂っている。いくつか
の品種のなかでパナマを選んだ。
塚本先生のお宅は鴻池新田にあった。なん
どかおいでおいでしてもらった時のことを思
い出していた。
『薔薇色のゴリラ』のブラッサンスの話題
でもりあっがたところで、ふと消えたかとお
もったらニッとうれしそうに戻って来られた。
手には一本のビデオ。・・・ん?
『無用ノ介』。伊吹吾郎主演のテレビ映画だ。
「貸してあげます」。
丁重にお断りした。今なら、よろこんで。

無用ノ介の明眸ひとつ 星月夜にはかにか
きくもり梅雨至る    『風雅黙示録』