枝雀の『三十石』は聴くべし

枝雀。
落語は登場人物を一人で語って
演じわけるもの。
インテリのご隠居、大旦那、武士から
粗忽者、丁稚、よたろう、ぬすっと。
それを、枝雀はキャラを必要なし、
すべては落語の底なしのあほらしさへと
つきすすむ狂気でぶっこわしてしもた。

なにをしゃべっとんねや、よおわからん。
とにかく、おかしい。
舞台をいきなり異次元にかえるには
勢いのあるリズムしかない、これが
枝雀のつきつめた方法論だった。
そして実にみごとに爆発した。

枝雀落語にはきちんとした筋立ては無用。
せやから、青菜のようなネタでも、植木屋ひとりを
酒に酔わせるだけで、あとの<くろうほうがん>は
どうでもよくなる。
大作より小ネタの方がおもろい。

『三十石』はよかった。
天満橋の八軒屋のすぐ近くで生まれ育っただけに
この川でむかしはこんな世界がくりひろげられてたんか
と想像してしまう。ラストの船頭歌はしみじみ。