蕎麦切りの革命児、『時香忘』高田典和

蕎麦といえば<蕎麦切り>のことです。
縄文期から江戸中期までは<蕎麦掻き>でした。
江戸で蕎麦食文化の革命的転換がありました。
そのあとこの流れの根幹はかわりません。
こだわりの視線は、みなさん蕎麦栽培、自家製粉。
肝心の打ち方そのものに関しては、
うたがいはなくひたすら盲従。
従来の技の向上。細さ、黒さ、星のとびといった
時代にあった洗練を競っているだけの世界です。
その200年の蕎麦打ちの歴史をラディカルに
問い直している革命児があらわれています。

『時香忘』の高田典和さんです。
蕎麦打ちの基本は水まわし。
この常識を完全にひっくりかえした打ち方をします。
まず10割であることはここでいうまでもありません。
ここからです。
水まわしは50%程度で手早くしなければなりませんが、
なんと、てきとうに手水で感触を確かめながら
ときには最終的に80%もの水分で一時間もかけます。
のしは、10smもの丸太ん棒をつかう。
のしからすぐに切り工程にはいらないと
乾燥して切れ切れになるのですが、
ここで長時間ひろげて乾燥させます。
蕎麦は打ち立てを切ってすぐ食べるのが当たり前ですが、
ここでもくつがえしています。
寝かせて熟成です。これに関しては翌日がいい
という考えも数年前からきこえてきています。
そこで、1週間、1カ月といろんな熟成期間の
研究も継続して日々進化中。

打ち方については、変わり蕎麦といって
柚子や胡麻のほかバリエーションをふやすという
脱サラ蕎麦屋もありますが、それは小手先。
高田さんは、ほかの素材ではなく、あくまで蕎麦の実
そのものをすり鉢でおしつぶして配合したり、
色目、食感、風味の試行錯誤も
蕎麦100%から、ぶれることがありません。
発想が哲学的であり、
トライとデーター蓄積は科学者であり、
愚直に職人であり。

アート、ファッション、いろんなジャンルで
カリスマ、異端児があらわれていますが、
食の分野では、高田さんがそのトップランナー
であることはまちがいありません。

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【タイム食首】
おおはるかなる沖には雪のふるものを胡椒こぼれしあかときの皿
: 塚本邦雄