『俳人風狂列伝』 石川桂郎
テクスト論は、俳句なら俳句17音だけを享受する。そこに作者
はいらない。ロラン・バルトの提言ですね。短歌を読み解く際に、
作者の年齢、性別、犯罪者であろうとLGBTであろうと、一切関係
ない。塚本邦雄はつねにそう主張しました。
分け入つても分け入つても青い山
山頭火に瞬殺された。あなたならどうする?もっとほかの俳句を
知りたい。いろんなテクストを渉猟する。それから。
作者は、どんな人?どんな境遇?最期は?
放哉にも同様の興味はわきますね。自由律の俳人には特に作者自
身の背景から句の奥を読み解きたい芸術的好奇心がかきたてられま
す。
俳句と風狂は合っている。作品以上の風狂の生き様をみたい。そ
んな衝動をこの列伝はみごとな距離感で作者にきわめて近い場で端
正に寄り添って紹介している。
放哉、山頭火、三鬼、東洋城、知っているにはこの四人まで。全
部で11人。しかしその三鬼でさえ、抱いてきたイメージとは大き
く違っていました。三鬼の場合はほかと逆で、すさまじくアナーキ
ーな人生と思いきや、意外ときちんとした歯科医でありました。
夜濯ぎの一夜妻待つ古雑誌 : 田尻得次郎
冬を生き人の遺品を身に纏ふ : 岩田昌寿
黛を濃うせよ草は芳しき : 松根東洋城
秋風に言ふこともなく別れけり : 相良万吉
藁巻きこむ牛の厚舌走り梅雨 : 阿部浪漫子