蝉が鳴き始めた。
ぽわぁ~んとぬるんだ大気の膜に
針穴をつついたように、
しゃわしゃわ、がきたな、というまに
わしわしわしわし、と音響列車が襲ってくる。
最後は、よしよしよし、ときいて、蝉を見送ってやる。
メスをよぶためにオスだけが鳴くとは、切ないではないか。
この朝の大気をジャンピングさせる大合唱が、みな
セックスを求めるオスのおたけび合戦とわかれば、なんと暑苦しい。
・旧姓といふ空蝉に似たるもの : 辻美奈子
婿養子になった友人がいる。
男なら蛇の皮の感慨でおるんやろうか。
桜をみて、ああまた1年がたった。
ことしの桜の想い出がない。
どうしてかとおもいめぐらしたら、
春は震災にこころ奪われていたんだと
わかった。
蝉をきいて、ああまた1年が晩夏にむかいはじめた
ことを知る。
オス蝉のごとく、炎帝たちは愛の対象をゲットして
死にむかう。