遺品となったワインで追悼

息子が突然死した。逆縁である。
遺品の整理をしていたら、あるワインセラーに
かなりの本数のフランスワインを預けてあることが
わかった。
そこで生前交際のあったとおもわれる方々に
連絡をとって、息子をしのでもらえたらと、数本ずつ
ワインをおくった。

奇妙なご縁で、わたしもその追悼ワイン会に誘ってもらった。
<オスピストボーヌ ボーヌ2000 ニコラ・ロラン>
乾杯をして、ボトルをまわしていたとき、
「ああこれ、ラベルに彼の名前はいってるやんか」

ワイン仲間で樽買いして、オリジナルラベルを貼ったものだろう。
そうとうワインにいれこんでいたとはきいていたが、
そこまでとは。
一度大学院を卒業してロケット研究所に勤務していながら、
また別の学問をしたくなって、大學入試から受けなおし。
その後、ずっと学究生活をつづけて、いろんな趣味を
存分にたのしんでいた暮らしがだんだんとうかびあがってきた。

ワインは銘柄やない。価格やない。
だれと飲むか、が一番味に左右される。
語りあううちに香りは複雑に変化し、最初はさらりとした
洗練の飲み口がだんだんと襞のあるコクになっていた。
この夜のワインはことさら想い出深いものになった。