『よっとこどっこ』
漁村、湊町あたりに伝わる放浪芸があります。
えびす様の人形(でこ)まわしが
家家にとびこんでは、わはっはっ、
笑いながらお金をもらいます。
そのときの口上だそうです。
小黒世茂の第四歌集のタイトルになっています。
『隠国』『猿女』『雨たたす村落』
先の三つの歌集のタイトルからもわかるように、
小黒は紀州和歌山の里を谷を川をかけめぐり、
土着性にあふれたアニミズムの世界を呪性あふるる調べで
短歌を創出してきた。
多くの現代の歌人が、歌うテーマの必然性をみつけられないまま、
うすっぺらい言葉を消費しているのをみると、
はやい時点で自分のライフテーマをみつけた小黒は
ラッキーというのか、賢かったというべきか。
今回は、その土着性を薄めた方にむしろいい歌があります。
・金いろの風邪カプセルすべらかにわが体内の仏となりてむ
・おまへにはいつぺん言ふておかねばと仏は足を組み変へたまふ
・ああでもなしかうでもなしと下ろし金の突起くらゐに脳はたらく
・早起きしてみたけれどなーんもないとりあえず鼻骨かゆければ掻く
・ジャパネットたかた社長のこゑたかく張れば部分痩せ器具はふるえる
吉野には前登志夫、熊野には中上健治、
歌の呪性においては山中智恵子。
魂も肉体も日本のアニミズム、呪術と闘ってきた
畏れの先陣がいます。
小黒がこれから大きく化けるには、
訪問者ではなく、命を賭けて土着をみつめなおす
姿勢が問われるでしょう。