宮永愛子展 『空中空』

うっすら淡い月光に翅を透かせた蝶々がとんでいる。
あそこに、あっ、あそこにも。

よくみれば、羽をもがれた蝶々も。
一匹、二匹、闇にきえていく。
恩寵のように光を帯びた命が融けていく。

宮永愛子展 『空中空』 ~なかそら~
国立国際美術館の地下2階の闇の空間に
ナフタリンで彫刻された蝶々たちが青白い光に
浮かび上がっている。

・なかぞらに立ちゐる雲の跡もなく
身のはかなくもなりにけるかな (伊勢物語)

・初雁のはつかに声を聞きしより
なかぞらにのみ物を思ふかな (古今集・恋)

宮永は、古語<なかぞら>から
中空を鏡文字にして<空中空>ということばを創りあげた。

宮永のナフタリン世界には
コンセプチュアルが先行したもどかしさはない。
この世のはかな。
陰陽礼賛。
命の幽玄の世界が顕現するさまにふるえあがってしまう。