・紐育空爆之図の壮快よ、われらかく長くながく待ちゐき : 大辻隆弘
この歌は2002年の歌集『デプス』に収められています。
2001年の9.11米国同時多発テロを題材にした、
という点は作者がコメントしています。
『紐育空爆之図』は会田誠の1996年の作品で、
これは<戦争画RETURNS>シリーズ 1995~2003
のなかで発表されています。
いま、森美術館でひらかれている画期的な
<会田誠展>において、あらためて注目されています。
そして、あらためて大辻隆弘の短歌を思い起こしました。
大辻は、会田の絵画作品を題材にして9.11をテーマにした
政治的短歌を発表していますが、会田はもちろんテロ事件を
予見したわけではありません。
会田の戦争画シリーズは、作品の連作テーマに政治的傾向はバラバラ。
作者自身がはっきりと、意図的に矛盾した不統一なもの、としています。
藤田嗣治の戦争画責任問題、戦後の左翼偏重の文化ムード、
日韓問題などなど、いろんな要素をはらんでいます。
なおかつ、絵画そのものは、洛中洛外図はじめ幾層もの
美術史的レイヤーを複雑精緻にかさねた仕上がりです。
大辻の短歌についても、批評論争の争点が
9・11の政治問題だけにややかたむきすぎたきらいがあって、
10年経過した今、レイヤー分析をさらに大きく深くひろげて
見直すことがあってもいいのでは。
和歌と天皇制、
歌会始のこと、
斎藤茂吉らの戦争賛美歌・国威発揚歌、
短歌結社の家元制、など
多様な問題提起があってしかるべきでしょう。