『近寄るな』野見山暁治

『近寄るな』

洲之内徹のことを野見山さんが書いた。
「洲之内さんが亡くなって、葬儀の日、北池袋の教会から
郊外の火葬場に向かうバスの中で、見ると男はぼく一人だ
った。並みいる女性たち、ほとんどが故人の折々の歴史を
刻んだひとだと、これはあとで聞かされた、本当か。
黒い喪服に包まれた女が席を埋めつくし、いちようにお
し黙って、ひたすら車の振動に身をかませ、同じ方向を辿
ってゆくなんて、これはシュールリアリズムの世界、見ご
たえのある洲之内コレクションだった。」

野見山さんのことを田中小実昌が書いた。
「野見山暁治は、やたらに女性にモテるようなことを言い
ふらしているが、だまされてはいけない。ぼくは、ずっと
いっしょにくらしていて、よくしってるけど、モテる話ば
かりで、モテる現場は見たことがないからだ。
だいたい、オンナの趣味もよくないよ。お上品で教養の
ある女性ばかりとつき合うなんて、これほど悪趣味なこと
はない。」